東京にも屋敷林があります。全国的には富山県砺波(となみ)地方や山形県飯豊(いいで)町などのの散居村屋敷林群が有名ですが、東京ではかつて名主等有力者であった歴史的な由緒から、代々継承されてきたものが大半です。場所は23区外縁部から多摩にかけての環状区域に散在しています。
「屋敷林」は、統一された言い回しや定義はありません。読み方一つとっても「やしきりん」、「やしきばやし」があり、所有者の中には屋敷森(やしきもり)という言い方をされる人もおられます。定義づけでは各種文献などをみると、「防風対策等として屋敷の周囲にめぐらされた樹林のこと」のように説明しているケースが多々見られます。当会ではこうしたことを参考に呼び名を「やしきりん」とし、簡便には「防風など生活環境の安定や改善を目的として、母屋周り植えられ、育てられた森状あるい林状の緑」という意味合いで説明します。その姿は囲繞性(木々が屋敷を取り囲んでいること)、超高木性(屋敷より一段と樹高が高いこと)、風致性(遠方から視認して緑ある人里景観の象徴となっていること)が備わっていると言うことになります。
しかしながら、屋敷林はこうした生成時よりも都市の発展や時代の変化と共にその価値が変貌してきていることに注目すべきです。例えば全国の事例も含め、時間軸から見ると歴史性(屋敷も含め、世代を超えて維持されていること)や文化的な価値(自然資産)があり、科学面からは自然環境機能(クールアイランド、雨水浸透、遮音)、環境学習機能(準公開屋敷林での落葉焚や堆肥作り、炭づくり、植物観察、タケノコ等の収穫祭等)が認められます。また、都市化、人工化、デジタル・ネットワーク化、即物化などで氾濫するこの世にあっては、人のココロに訴える季節感や安らぎ等を醸しだし、自律神経の安定に素晴らしい薬となっています。
今日において後天的役割を持った屋敷林は、所有していること自体が容易ではなく、残念ながら消失の道を辿っているのが現実です。東京では下段に見るように屋敷林だけでなく農地も含めた緑の継続的な減少が続いています。緑の問題は、我が身に日常的に降りかかるものとの意識は小さいかも知れませんが、毎年のように甚大な被害をもたらす超大雨、強大台風などの今までに経験したことのない気象異変という事実は一体何なんでしょうか。産業革命以来、人は自然を資源として収奪、消費し、人口を増やし、満足や幸福を得てきました。誰もが好んでこれを排除すべくもありませんが、一方では確実に万物・自然とのバランスが微妙に崩れ始めてきていることを知らねばなりません。「なんとかなるよ」の打算はとても危険です。
屋敷林は規模も存在も小さく、マクロ的に見ればバランス度への貢献度はあまりにも弱小ですが、これからの時代、価値のパラダイムシフトを図り、もっとあらゆる分野で緑を重視した制度設計にして欲しいものです。
改めて今の時代に合った屋敷林の意味合いを提示します。
屋敷林とは、「主として居宅を強風から防護するために植栽された樹木群が、日常生活との関わり合いの中で世代を越えて育まれ、高木化により優れた文化的・風致的価値をもたらし、都市の環境改善や生物・情操資源としても重要な役割を持つようになったもの」